パワハラ被害
【パワハラ被害】
Aさんは、仕事におけるちょっとしたミスがきっかけで、職場の上司であるBから、嫌がらせを受けるようになりました。
AさんとBの間で,仕事の進め方について意見が異なったときがありました。このとき,Aさんは,Bから一方的に強い口調で叱責されました。また,Aさんが,会議のときに、業務の改善方法について発言したところ,Bは,「お前はやる気がない。なんでここでこんなことを言うんだ。明日から来なくていい。」と言われたりもしました。
Bは,Aさんに対し,「たばこ臭い」などと言って,Aさんの席の近くに扇風機を置いた上で,半年間にわたり,ほぼ毎日,扇風機の風を当て続けました。
Aさんは,抑うつ状態になってしまい,会社を休職してしまいました。
【問題点】
職場における暴言や嫌がらせなど,いわゆるパワーハラスメント(パワハラ)が,社会問題となっています。Aさんのように会社を休職してしまう人の他,自殺にまで追い込まれてしまう人もいます。
厚生労働省の調査によると,労働者の4人に1人が,「過去3年間にパワハラを受けたことがある。」と回答しています。また,平成23年度に労働局に寄せられた「いじめ・嫌がらせ」に関する相談件数は約4万6000件で,10年前(約6600件)と比較して約7倍にもなっています。パワハラは,労働者であれば誰もが遭遇する可能性がある深刻な問題なのです。
パワハラは,被害者の人格権(名誉,プライバシーなど)や良好な職場で働く利益を侵害するものであり,加害者に対し,不法行為や債務不履行に基づく損害賠償責任が発生することになります。会社が使用者責任を問われる場合もあります。
Aさんのような事案において,裁判所は,Bと会社に対して,以下のとおり,Bの行為は不法行為にあたるとして慰謝料等の損害賠償を支払うように命じました。
Aを叱責したり,「明日から来なくていい。」といった行為について,Bは,Aの怠慢に対する業務上必要な行為であると主張しました。しかし,裁判所は,Bの行為はAを一方的に非難するとともに,Aに今後の雇用に対する著しい不安を与えたものであるとしました。
また,扇風機の風を当てた行為について,Bは,心臓発作を防ぐため,たばこの臭いを避けようとしたのだと反論しました。しかし,裁判所は,長期間にわたり執拗にAの身体に著しい不快感を与え続けたものであるとしました。
最近は,この事案のように,大声で叱責される,無能扱いされる,無視される等の精神的な攻撃が目立つようになっています。
【対処法】
「俺は,当時の上司から罵倒され,怒鳴られながら育てられた。今思えばとてもありがたかった」などと言って,部下に対しても同様に接することが,部下を育てることになると思っている人が,少なからず存在します。
上司が,部下を厳しく指導することが必要な場合もあり,厳しい指導が全てパワハラになるわけではありません。
しかし,ビジネスにおいて,昔のやり方が通用しないのと同様,人の指導についても,昔のやり方がそのまま通用するものではありません。労働環境や働く人の意識は大きく変わっているのです。
パワハラの被害を受けている人は,家族や職場の同僚などへ相談したり,公的機関を利用したりするなどして,1人で悩まないことが大切です。
働く人にとって,職場は,1日のうち多くの時間を過ごすことになる大切な場所といえます。会社は,働く人の人格を傷つけることなく,やりがいをもって楽しく仕事ができるような職場環境を維持するよう努力すべきでしょう。